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第1回:製造業は古い常識に縛られていないか?

世の中の変化にあわせて製造業にも変革を

周知のごとく、昨今の世界的な金融崩壊のとばっちりを受けた多くの製造業がいま、悲鳴を上げています。かつては「高利益を確保する」という、ある意味相対的な目標達成のために高い競争力が追求されていましたが、いまや「高い競争力」は会社の存続をかけた絶対的な命題となっているといっても過言ではないでしょう。

では製造業の競争力は何によって得られるのでしょうか? もちろん製品そのものが優れていることが最重要でしょう。モノづくりの原点はそこにあるのですから。

しかし、ここ二十余年の間に大きく進行したグローバリゼーションやインターネットの普及の結果、個人や企業は欲しいと思う優れた製品や部品を全国から、あるいは世界中から見つけ出して安価に買い付けることができるようになりました。いまや製品力だけでは不十分であり、短納期、迅速な納期回答などといったサービスの向上、在庫削減によるキャッシュフローの改善による財務体質の強化などが競争力維持の必須条件になっています。また消費者のし好の多様化に伴う多品種少量化と製品ライフサイクルの短縮は、工場運営の根底に揺さぶりを掛けてきています。製造業を取り巻く環境がドラスティックに変化しているのです。

このような時代の大きな変化に一方的に振り回され続けていては、工場は青息吐息で疲弊してしまうでしょう。むしろ積極的に変化に対応し、先手を打って変革していくことが競争力の獲得につながり、むしろ新しいチャンスをつかむことができるのではないでしょうか? 旧態依然とした近視眼的手法の延長上で工場を運営しながらコツコツと改善し続けるだけで、全体を見渡したうえでの変革をおろそかにしていると、結局は局所解に陥りかねません。時代が大きく変化している以上、それに応じた仕組みを作り上げて運用していかなくてはならないでしょう。

では何を変革すればいいのでしょうか? 業種によって生産形態や事情はまちまちなのですから、例えば見込み生産から受注生産に切り替えましょう、などといっても無意味です。より普遍性のある提案として本連載で主張しようとしているのは、「時間軸」を重視した工場運営です。

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「フル稼働」の呪縛にかかっていないか?

いまだに多くの工場では「製造リードタイム」、つまり製造に着手してから製品が完成するまでの時間が長くて納期遅れが多発する、という悩みを抱えています。外的変動要因が少ない完全見込生産でもない限り、「製造リードタイム短縮」というお題目は製造業にとって重要なテーマであり、悲願ともいえるものでしょう。製造リードタイムが短くなれば納期遅れは激減し、滞留在庫も減ってキャッシュフローが大きく向上するからです。

ただしこのような大きなテーマに取り組むためには、現場の視点だけから観察しても問題の本質は見えてこないでしょう。例えば、「機械はフル稼働だし毎日残業して精いっぱい頑張っているのだから、『カイゼン』して製造リードタイムを若干減らせたとしても、ほぼ限界だ!」と直感的に判断してしまうようなことはないでしょうか? 例えば図1(A)のような状況では、第2工程の前に仕掛かり在庫の山があっても、局所的に観察している限りにおいては「仕方のないことだ」と考えてしまうのも無理はありません。

図1 どちらもフル稼働

問題の本質を見誤ると、かえって傷口を広げてしまうことがあります。かつては稼働率を上げることが目的化し、そのために当面必要ないものまで作ってためてしまう工場も存在しました(いまも?)。これはナンセンスですね。もちろん「結果的な」フル稼働は歓迎ですが、忙しく稼働しているからといって「うまく製造している」ことにはなりません。図1の(A)(B)はともにフル稼働状態ですが、(B)が滞りなく流れているのに対し、(A)の方は工程間の待ち時間が常に発生して製造リードタイムを無駄に引き延ばしており、仕掛かり在庫がたまった「下手な製造」といえるでしょう。フル稼働は「上手な製造」の十分条件ではないのです。

多くの工場では「無駄な工程間待ち時間」が製造リードタイムの主犯なのですが、「フル稼働の呪縛(=とにかく休まず精いっぱい働け!)」に支配されては、本質的な問題を見失います。論理的には劇的に改善できる余地がある工場は多いはずであり、工場全体を過去から未来へとわたる時系列上で現象を把握し解きほぐしていけばいいのです。そのための手段の1つが「工程計画の立案」です。

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製造計画を立案するということ

ひとくくりに「製造業」といっても多種多様なので、業種や会社が異なると使われている用語も千差万別です。同じ用語であっても表している概念がまるで違ったり、意味が完全に入れ替わっているような場合すらあるので、標準用語集が欲しいところです。米国ではAPICS Dictionaryあたりがその役目を担っているようですが、残念ながら日本では標準として確立されたものはないようです。ですから本稿においては、随時用語を定義しながら進めていきます。

本連載で論じるのは「製造現場における各作業の実行計画」についてです。工場でモノを作るための計画というと「生産計画(Production Plan)」という言葉が真っ先に浮かぶと思われますが、この言葉は主に受注・内示や需要予測などから割り出した月産予定などを基に日々の「生産量」を決めること、つまり基準生産計画(MPS)を表すことが多いようです。広義には「製造現場での実行計画」まで含まれる場合もあるようですが、そもそも別の概念なので、区別するために本連載では「製造計画(Manufacturing plan)」という用語を使うことにします。

つまり「生産計画」で立案された工場へのリクエストに応えるための具体的な方法を「製造計画」として立案する、というわけです。

製造計画を考えるうえで「リソース(resource)」の概念が重要です。何かしらの作業を開始したときに占有され、終了時に解放されるあらゆるものをリソースと呼ぶことにします。機械、設備、作業員、工具、金型、電力(アンペア)、作業場などが該当します。作業時に消費される原料や中間品の在庫もリソースと呼ばれる場合がありますが、本稿においては「消費されっ放し」のものはリソースからは除外することにしますので、注意してください。

さて、工場内のリソースや資材在庫が潤沢で無尽蔵に利用できるのであれば、製造計画は極めて単純です。各工程の作業時間の合計分だけを納期からさかのぼった日時から着手すればいいだけです。

しかし、もちろん現実の工場ではリソースは限られています。ロット同士のリソースの取り合いが常に発生するので、調停して作業の時間をずらしたり別のリソースへ移動させたりすることになります。時間がずれれば前後の工程にも波及し、それがさらに別の作業に影響を与えます。それに加えて、資材購買のタイミングや稼働時間(作業員の休暇やリソースのメンテナンス休止など)などもダイレクトに影響します。

計画立案をすべき期間中に存在する作業の数は工場によってまちまちですが、少なくて数百、多い場合で数十万(一部の業種ではそれ以上)もあり、それらが直接・間接に相互に影響を与え合っているわけですから、本来は極度に複雑な系なのです。

ですから計画立案に真正面から取り組むとなると、それはもう膨大な処理を強いられることになります。しかもオーダー、リソースの休止、資材受け入れといった外的要因が日々変動するのですから、それに応じて頻繁に(場合によっては1日に何回も)計画を更新しなくては十分な精度を維持できません。

製造計画は一筋縄ではいかない、本質的に難しい問題なのです。

本連載でお勧めする解決策は「生産スケジューリング」という手法ですが、これについては次回以降に具体的に紹介していきます。

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MRPの落とし穴 ~ 標準リードタイム

計画立案というと、多くの製造業においてはMRP(Material Requirement Planning:資材所要量計画)という手法になじみがあるのではないでしょうか。それは、1970年ごろに米国で考案されて以来、大部分の製造業向けERPや生産管理システムにこの仕組みが実装され、その考え方が深く根付いているためでしょう。ただし製造計画立案の手法として見た場合、MRPには表裏一体ともいえる2つの問題があります。

1つは「製造リードタイムが長くなってしまう」ということ、もう1つは「実行可能性が必ずしも保証されていない」ということです。

MRPを簡単に説明するならば、工場がさまざまなモノを作ることを要求されたときに、それぞれの材料をいくつ用意すれば足りるかを計算(=所要量計算)する仕組みです。しかしこれだけではモノを作ることはできません。なぜならモノを作る過程では必ず時間がかかるからです。そこでまず、製造に正味1日かかるのであれば、遅くとも納期の1日前に材料をそろえておけばいい、と考えます。

しかし、工場を流れている製造ロットはほかにもたくさんあるので、リソースをいつでも自由に使えるとは限りません。そこで例えば、納期の1週間前に材料を用意すれば「確率的にはほぼ大丈夫」なはず、と考えます。言い換えると、「材料からモノを作るための工程を通過する時間は、統計的には1週間見ておけば十分だ」となるわけです。この「1週間」を「標準リードタイム(あるいは固定リードタイム)」と呼びます。

完成品を作るまでにこのような工程が3つ連なったらどうなるでしょう?

材料から製品を作るまでに3週間かかってしまいます。正味作業時間は1日×3工程で3日しかないのですから、21日間のうち18日間は無為に待っているわけです。

工程が完璧(ぺき)に平準化・同期化されていない限り、いかなる手法をもってしても工程間待ち時間を完全にゼロにすることはできませんが、正味3日に対して18日間の待ち時間というのは、あまりにひど過ぎますよね。

図2 リードタイム3週間

標準リードタイムではなく正味時間を基に作業を並べて無駄な待ち時間を排除すると下図のようになります。期待どおりに製造リードタイムは3日です。

図2 リードタイム3日間

これがいわゆる「ジャストインタイム」の考え方であり、本連載で紹介していく「生産スケジューリング」という手法がよって立つ基本的な考え方です。もちろんこの図は作業の並び順による効率や作業員の制約などを無視した概念図にすぎず、現実の問題はもっと複雑であることを忘れてはなりません。

ところでMRPにおける「標準リードタイム」はどのように決めるのでしょうか? 単純に工程通過時間の「平均値」を採用してしまったら、2回に1回は枠からあふれてしまいますから、それよりはるかに長い時間(統計的に妥当な値)を標準リードタイムとしなくてはならず、これが製造リードタイムをさらに長くしてしまう要因となります。これでは到底短納期を実現することはできません。

実際の工場の能力を度外視するMRP

さらに悪いことに、いくら製造リードタイムを長くしたところで、実行可能性が完全に保証されるわけではありません。

たまたま仕事が集中すれば、ほかの作業に押し出されてしまう可能性はゼロにはならないのです。もちろんどんな手法を使ったとしても「計画立案以後」に発生する事象(機械トラブルや突然の飛び込みロット)のために実行不可能になることは避けようがありませんが、MRPでまずいのは、「計画立案時点」ですでに実行不可能であるかもしれないということです。これらの問題の根本は、標準リードタイムを決めてしまった後はMRPが無限能力(各リソースの処理能力の限界を無視すること)を前提としていることにあります。

「山崩し」は、リードタイムと実行確実性のトレードオフになりやすい

「いやいや、うちのMRPはそんなことはない」といわれる方も多いでしょう。当然この問題を解決するための方策も試みられており、その1つが「負荷」という概念の導入です。1週間や1日などといったMRP処理の単位期間の枠(タイムバケット)の中に作業を山積みします。そしてこれが一定の負荷水準(能力の上限)を超えると、1つ前の期間(タイムバケット)にずらします。一度積み上げてから崩すので「山崩し」と呼びます。

ただし、これがまたしても製造リードタイムを大幅に延ばす要因となりますから、実行可能性は改善されるとはいえ、残念ながら手放しで喜ぶことはできないのです。

そもそも、この「負荷計算」という発想自体が粗く、現実世界での実行可能性の確保や製造リードタイム短縮を阻害する要因になるのですが、これについては後日あらためて触れることにします。

図4 負荷と山崩し

次第に広がる現実とのギャップ

MRPをあしざまに書き過ぎたきらいもありますが、妥当な設定をすれば、適時に資材調達して計画的にモノを作ることができるわけですから、MRPが開発された大量生産全盛の1960年代には重宝されました。

また、この時代のコンピュータの性能ではこれ以上は望むべくもなかったという消極的事情もあります。しかし、製造リードタイムにシビアにならざるを得ない21世紀にあっては、多くの業種において、このMRPの考え方は正直なところちょっと厳しいパラダイムなのではないでしょうか。

現在でも多くの工場ではMRP、あるいはその考え方が支配的な影響力を持っていますが、結局のところMRPは調達すべき資材の量と統計的に妥当な調達タイミングを決めるための仕組みではあっても、残念ながら「製造計画」を立案するための手法とはいい難いものです。

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製造現場をコントロールするためのほかの手法

「うちの工場はMRPを使っていないから関係ないよ」といわれる方もおられるでしょう。しかし、たとえMRPを使っていなくても、標準リードタイムや負荷計算(あるいは負荷山積み)の考え方の延長で計画立案している場合がほとんどではないでしょうか。

生産計画の結果としての月産量や受注を基に、それぞれの作業をどの日(あるいは週)に実行するかを決めてから負荷をならし、最後に作業順序を決めるといったプロセスを採用する企業は、この類型に当てはまるといえるでしょう。

勘とルールによる計画立案

意外と多くの割合を占める手法が、「勘とルールに従った立案」です(ほかの手法との併用も多い)。過去の経験から得られたノウハウをルールとして体系化し、それに該当しない部分は勘に頼って製造現場への作業指示を作成します。

この手法では「品目Aは月初に、品目Bは月末に集めるといい」とか、「同一カテゴリーの品種を3回以上連続して作らない方がいい」といったような「ルール集」を構築します。

ただ、中には作られた理由が分からないルールが交ざったりするのが厄介です。そのルールを作った人が現役の間はよくとも、世代交代時に形骸化したルールだけが伝承されると応用が利かず、製品構成や工場内のリソースの構成などが変わると対応できない場合も少なくありません。

また、勘に頼る比率が高い場合は、その計画担当者がいなくなると立案業務がストップしてしまいます。いずれもいわゆる「属人化」問題であり、多くの製造業はこれで悩んでいます。

「属人化」とは見方を変えれば個人スキルの集積ですから、それ自体は一概に悪いこととはいい切れませんが、本来、個人のスキルに頼る必要がないことまで個人のスキルに依存してしまうのが問題です。作業の順序を決めることが本当に個人スキルに頼らなくては成立しないようなものなのか、きちんと検討する必要があります。

頻繁な変更に対応できるか?

さらに問題なのは、(MRPでも同様ですが)飛び込みロットや急なトラブルに即座に対処できないことです。波及範囲が大きいような変化に都度対応していては、1日分の計画を1日以内に立案することすらままならなくなってしまい、結局は飛び込みロットを別枠扱いにするなど、現場判断で対応することになり、計画の精度を犠牲にすることになります。その結果、計画担当者が発行した作業指示の実行可能性が損なわれ、ひいては製造現場の作業指示への信頼も損なわれ、秩序も失われるでしょう。計画立案者と現場の間の信頼関係については後ほど改めて触れます。

この手法は大抵は手作業であり、ちょっとした変更が生じてもExcelのような表計算ソフト上で延々とコピー&ペーストを繰り返すことになります。はた目から見ると非生産的で非人間的な作業なのですが、人によってはこの手の単純作業が意外と楽しかったりするので(ソリティアみたいなもの)、なかなか改善されません。

本来、計画担当者は関係各部署との折衝など、もっと高度な業務に取り組むべきであり、経営サイドから見ると大いに無駄であり、とても始末が悪いのです。

つまりこの手法は、変化に対して極めてもろく非効率なのです。

“現場任せ手法”

一方で、計画立案しないで「現場任せ」にするという「手法」(?)も存在します。最初から製造現場での自律的な判断に委ねるわけですが、裏を返すとコントロールすることを放棄しているともいえます。単工程(1つの工程で完成品が作られる)であれば有効な方法かもしれませんし、あるいは、毎日同じものを同じペースでただ淡々と作り続ければよい場合も同様でしょう。

しかし、多工程の場合や日々作るものが変わる場合は、それぞれのオーダー(製造ロット)がどこまで進んでいて何がいつ完成するのか、把握も制御もできない状態に陥ってしまうでしょう。

「何がどこまで進んでどこにあるのか分からない」とは、製造業でしばしば聞かれるセリフです。わずかな変化があっという間に混沌(こんとん)を招いてしまうもろい「手法」といえます。また、製造現場では現時点でのそのリソースだけしか意識に入らないため、結局は「部分最適」に陥りやすく、工程間の無駄な待ち時間(=過大な中間在庫)や大幅な納期遅れなどの原因となり、全体として見たときに大きく効率を損なってしまうことも少なくありません。最悪の選択といえます。

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かんばん方式は万能か?

もっとも、高名な「かんばん方式」のようにシステマティックな「現場任せ」も存在します。ある程度まとまったロットの限られた品種を繰り返し規則正しく製造するような場合には有用な方法ですが、逆に外的要因の変動が大きい工場では不安があります。

現実には、サプライチェーンの中で優位に立つ側の企業でない限りは変動に振り回されることを前提としなくてはならないでしょうから、効果を得られる企業は限られてしまうでしょう。また導入・運用を始めるに当たっては、製造物に合わせた工程、リソース、タクトタイムの平準化などといった製造現場での改善活動により揺らぎ要因を極力排除することが前提となり、関連工場(サプライヤー)もいや応なく巻き込むことになります。

そもそも「かんばん方式」などは全体的な改善活動を大前提としたものであって、これ自体はパーツにすぎません。これを採用すればうまくやれると判断するのは、アマチュアアスリートが一流のプロスポーツ選手と同じ道具を使うだけで上達すると考えるくらい早計でしょう。本当に上達するためには、プロ選手と同レベルのトレーニングをしなくてはならないというのに。不断の努力が求められるので、高いハードルを覚悟しなくてはなりません。

いずれにせよ、「現場任せ」方式は「現在」という切り口で自律的に管理する仕組みであり、「計画」として過去から未来へとわたる時間軸上で把握・制御したいというニーズは満たしません。製造現場の自律的制御は、やはり何かしらの計画立案手法と併用してこそ十分な成果を得られるものです。

◇◇◇

次回は製造計画立案手法の本命、「生産スケジューリング」とは何かについて具体的に解説します。ご期待ください!

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