解説記事

第2回:生産リードタイムを短縮せよ

キーワードは「多品種少量・短寿命・短納期」

製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。

かつて日本が貧しかった頃は、欲しい物は皆同じでした。たとえば「テレビ・洗濯機・冷蔵庫」が「三種の神器」と呼ばれました。その後、高度成長期に入ると、今度は「カラーテレビ・クーラー・自動車」が「3C」または「新・三種の神器」と呼ばれるようになりました。

その後も、色々な「三種の神器」が提案されたのですが、これらの名称はほとんど浸透しませんでした。その理由は、名称が定着する前に商品自体が普及してしまったからだろうと思います。例えば「デジタルカメラ・DVDレコーダー・薄型テレビ」が「デジタル三種の神器」と呼ばれたそうですし、2003年にも小泉首相が「食器洗い乾燥機・薄型テレビ・カメラ付携帯電話」を「新三種の神器」と命名したそうです。「カメラ付携帯電話」とは、今にして思えば「普通のケータイ」のことです。「神器」というほどの希少性はもはやありません。今の神器は「3Dテレビ・乾燥機付き洗濯機・スマートフォン」というところでしょうか。ただしこれらも数年のうちに一般家庭に普及することでしょう。

市場で認識されてから普及するまでの期間がこれほどまでに短くなると、「神器」も大変です。あっという間に世代交代を余儀なくされます。

日本の製造業が努力を続けて品質を向上させ、輸出を拡大した結果、皮肉なことに円高が進み、現在では安価な輸入品があふれるようになりました。それに対抗するために日本製品の価格も下がり、さらに少子化も加わって、日本は深刻なデフレに長く苦しんでします。価格競争を続けるのは苦しいので、付加価値で差をつけようと、各社が激しい製品開発競争を繰り広げています。そのスピードは非常に速く、正に日進月歩です。

その結果、長期にわたる大ヒット商品は影を潜め、多様な商品が登場しては消えていくようになりました。つまり「多品種少量」かつ「短寿命」です。短寿命となると、販売店は必然的に「売れ筋の商品を早く持ってこい」と要求します。つまり「短納期」です。

こうして、多くの製造業が「多品種少量・短寿命・短納期」への対応を迫られるようになりました。

「製造業のジレンマ」

この「多品種少量・短寿命・短納期」という要求は、実はかなりの難題です。

まず「多品種少量」、すなわち、多くの種類の製品を少しずつ生産すると、段取り替えが増え、生産性が低下します。また他の製品が生産されている間、待たされることになります。さらに、どの製品の生産を優先するかの判断が難しくなります。その結果、通常は、生産リードタイムが長くなります。

でありながら「短納期」です。もしも納入に許されるリードタイムが生産リードタイムよりも短いのなら、注文を受けてから作り始めたのでは納期に間に合いませんから、あらかじめ作りだめしておくしかありません。生産リードタイムが長くなるほど、その間の機会損失を減らすためには多くの在庫を確保しておくことが必要になります。たとえば、生産リードタイムが1年で要求が即納の場合は、1年分の需要を予測し、その分の在庫を抱えておくことになります。生産リードタイムが1カ月なら1カ月分、1日なら1日分で済みます。さらに「多品種」の場合には、在庫を確保しておくべき品種数も多くなります。在庫切れを防ぐための安全在庫を一品毎に確保しようとすると、少品種多量生産に比べてトータルの在庫量も多くなってしまいます。

これに「短寿命」が追い打ちをかけます。貯め込んでおいた在庫品も、そのうち消費者の関心を失い、売れなくなってしまうのです。いわゆる「不良在庫」です。特に完成品の不良在庫は最悪の無駄です。材料を使って人手と時間をかけて生産して、さらに場所を取って保管して、その挙句に捨ててしまうのですから。

つまり、「在庫を持たなければ納期遅れor機会損失」「在庫を持てば不良在庫」というわけです。今、多くの製造業が、このジレンマに苦しんでいるはずです。

ではどうすればよいのでしょうか?

鍵は「生産リードタイム短縮」

この難題を解決するための鍵は、「なんとかして生産リードタイムを短縮すること」です。

生産リードタイムを短縮して、要求リードタイムよりも短くできれば、受注してから生産すればよく、在庫が不要になります。こうなれば理想的ですが、そこまで短縮できなくても、生産リードタイムが短いほど機会損失を防ぐための在庫量が少なくて済みます。また生産リードタイムを短縮することで、半製品や共通部品を在庫として蓄えておき、受注してから生産に着手しても間に合うようになれば、完成品在庫を保持するのに比べて不良在庫化リスクを減らすことができます。また生産リードタイムが短いほど、需要予測の期間が短くなり、したがって予測の精度も上がります。

このように、生産リードタイムを短縮すればするほど、在庫を減らすことができ、キャッシュフローを改善できるだけではなく、不良在庫の危険も小さくなります。

生産リードタイムを短縮するには

ではどうすれば生産リードタイムを短縮できるのでしょうか。

生産リードタイムには、正味の作業時間と待ち時間とが含まれます。このうち、通常は、待ち時間の方が圧倒的に長く、また、短縮もしやすいものです。待ち時間は様々な原因によって発生します。それらを明らかにして、影響や効果の大きいものから改善していくべきです。

なお、どこでどのような待ちが発生しているかも、生産スケジューラであぶり出すことができます。 さらに、どのような改善を行えばどのような効果が得られるかも、生産スケジューラを活用すれば定量的にシミュレーションすることができます。

生産スケジューラを上手に活用することで、短期的なものから長期的なものまで、様々な意思決定のための判断材料が得られます。

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