数学オリンピックの問題を解いてみた
マンガワンという漫画を読めるスマホアプリがあります。知人が「ミドリノバショ」というビリヤード漫画を連載していて時々読むのですが、そこで先日「数学ゴールデン」という漫画を見つけました。
第一話を何気なく読んでいたら、高校生向けの「数学の拳(数拳)」という月刊誌に「読者の共通点」という小ネタ投稿欄があるとか。この元ネタは「大学への数学(大数)」ですね。投稿欄は「読者の接点」でした。そういえば「学力コンテスト」やったなあ。懐かしい。。。と思いながら読み進めていたら、数学の問題が出てきました。
17人それぞれが他の全員と互いに手紙のやり取りをしている。
その手紙では3つの話題のみがやりとりされている。
そして、同じ2人組の間でなされる話題は常に同じ一つのやりとりである。
このとき、互いに同じ話題の手紙のやり取りをした3人組が存在することを証明せよ。(IMO 1964)
少し考えてみたら、すんなり解けました。正しいのか確認しようと読み進めたものの、ちゃんとした説明はなく、ただラムゼーの定理がどうとか。でも、そんな定理を知らなくても(私は知りませんでした)解けるのに。この漫画(あるいは主人公)、ちょっと肩に力が入りすぎなんじゃないの?
というわけで、ここでこれを解いてみようと思います。数学の楽しさが伝わることを願いつつ。
ところで、「IMO 1964」のIMOって、InternationalなMathematicsのOlympicのこと? と思って、国際数学オリンピックの1964年度の問題をネットで検索したら、確かにソビエト大会の第4問にこれがあったようです。
でも、大丈夫、そんなに難しくはないです。
まず、問題を理解するところから始めましょう。
「17人が互いに手紙のやりとりをしていて、その話題は3種類で、話題は変化しない。」
ということは、
「17角形の辺と全ての対角線を、3色で描き分ける」
のと同じことですね。赤と緑と青で描き分けることを想像してください。そうすると、証明すべきは、
「その中に、3辺が同じ色で描かれる三角形が(1つ以上)存在する。」
ということになります。
ここからは、
「同色の三角形を作らないようにどう頑張っても、同色の三角形がどうしてもできてしまう」
ことを示します。(「背理法」ってやつですね)
さて、どの人(頂点)も平等(対称)なので、とりあえず一つの頂点に注目しましょう。相手は16人です。
16の線を3色で描き分けるわけですが、すると、少なくとも6本は同じ色になります。
というのは、同じ色が5本まで、だと、3色では15本までしか描けません。なので一番多い色は6本以上になるしかありません。16=6+5+5ですね。
では一番多かった話題を赤で描くことにします。また人(頂点)の並びも話題に応じて変えます。もともとは手紙のやり取りだから別に問題ないですよね。
この先の(少なくとも)6人の間では、また互いに何かの話題がやりとりされているわけです。
その先の部分を、とりあえず青で描いておきます。
この部分は6角形ですね。形を整えると
こうなります。
このどれかを赤で描くと、元の頂点からの赤2辺と組み合わせて、赤3辺の三角形ができあがってしまいます。そうしないためには、赤を使わずに、緑と青だけで全ての辺と対角線を描く必要があります。
※ここで振り返ってみると、元の問題は「17人で3つの話題」だったのが、「6人で2つの話題」に小さくなったことがわかります。
ではここから先も、同じ考え方で進めましょう。
1つの頂点に注目すると、相手は5つです。
これを2色で描き分けると、最低3本は同じ色になります。2本+2本だと4本にしかなりません。5=3+2ですね。
では一番多い話題を緑で描きましょう。
この先の(少なくとも)3人の間では、また互いに何かの話題でやり取りされているわけです。
とりあえず青で描いておきます。
これを何色で描けばよいでしょう? 緑を使うと、先の頂点からの緑の2辺と組み合わせて緑の三角形ができてしまうので、緑は使えません。
となると、もう青しか残っていませんが、全部青だと、ここで青による同色三角形ができてしまいます。
もちろん赤を使っても、最初の頂点からの2辺と組み合わせて赤の三角形ができてしまいます。
というわけで、どうしても同色三角形ができてしまいます。(証明終わり)
こうしてみると、「17」という数字は、この証明のためのギリギリの数字だということもわかりますね。
17=1+16
16=6+5+5
6=1+5
5=3+2
問題を解くときは上から下に辿ってきましたが、下から上に遡ると、3色の三角形なら17がギリギリだとわかります。
特殊な事前知識を全く必要とせず、また、複雑に見えても順番に解きほぐしていくと実は単純、という、なかなか素敵な問題でした。
【おまけ1】
どうやってこの解法を思いついたか?について簡単に説明します。
まず問題の内容を明確化し、さらにそれをイメージ化しました。それによって、そこからいろんな連想をすることができます。
次に、なぜ「少なくとも6本は同じ色」に注目したか?ですが、実はここがポイントなのかもしれません。それまでは元の問題と「同値」あるいは「必要十分条件」で考えを進めていましたが、それ以上は先に進めなさそうなので、「少なくともこれは言える」という、いわば「十分展開」(造語です)に切り替えました。ダメだったらその時は他の道を探そう、ということです。で、まあ、人数が多い方が同じ話題で重複しやすいだろう、と、まずはその方向で考えてみました。結局そのままスムーズに解けたわけですが。16=6+5+5の時点で、ちょうどギリギリの数字だったので、なんとなく行けそうな気がしました。
【おまけ2】
このような階層構造を見せられると、逆方向に展開したくなります。つまり「話題が4つだったら、何人以上で3人組が発生すると言えるか?」という発展問題です。さらに、「話題がn個のとき、何人なら同じ話題の3人組が発生すると言えるか?」という一般化も簡単にできそうですね。
ただし、上の方法で示せるのは、厳密には上限値でしかありません(最小値ということを証明したわけではありません)。その人数より一人少ない場合は、ここの証明方法では「何とも言えない」からです。
【おまけ3】
正17角形の図を拾って来ようとネットで検索したら、定規とコンパスで作図できるらしいですね...。19歳のガウスやばい...。とはいえ、実際に定規とコンパスで作図しようとしても、すぐに誤差が乗って大変そうですが、おかげで正17角形の画像は簡単に見つかりました。ありがとうガウス。