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FLEXSCHE DataTunerをリリースしました

2021/07/05
written by 浦野 幹夫

浦野 幹夫

先日お知らせしたとおり、6月30日をもって私はフレクシェ社の代表取締役を退任しましたが、引き続きフレクシェ社をサポートしてまいります。というわけで、最初のお手伝いがこのブログ記事の投稿です。

以前のブログ記事(未読の方はまずこちらから)で新製品FLEXSCHE DataTuner(フレクシェ・データチューナー、以下「データチューナー」とも)のリリースを予告しましたが、2021年6月24日にFLEXSCHEバージョン20とともにリリースしましたので、ご紹介します。

ここで詳細なロジックをみっちりと解説しても多くの読者はついてきてくださるに違いありませんが:-P、そこは敢えて割愛させていただきます。内容の厳密さも脇に置いて、ここではおおまかなイメージをお伝えできればと思います。

本記事の記載内容はリリース時点のものなので、将来のバージョンでは変わる場合があります


作業実績情報を与えられることによって作業の製造時間と利用資源などが確定すると、それが標本データとしてデータベースに蓄積されていきます。ある工程の標本データが十分に蓄積されると、それらが分析(分類と統計処理)され、本来あるべき能力値(ざっくり言うと「1単位のモノを処理するのにどれだけの時間を要するか」)を推定します。

当初マスターデータに与えられていた能力値が"10 M/P"(1個あたり10分を意味します)であるとします。いくつかの標本データの製造時間を分析した結果、「実は"8.5 M/P"が妥当であった」というように推定されると、データチューナーはその推定した新たな能力値を「推奨度」とともに提示します。標本データの個数が十分に揃っていてなおかつばらつき(分散)が小さければ推定の信頼度は高いはずなので、推奨度も概ね高くなりますが、標本データの数が少なかったりばらつきが大きかったりすると、推奨度は低くなってしまいます。推奨度はその他にも様々な要因で上下しますが、そこはノウハウなので詳しくは書けません。あしからず。

ともかく、提示された推奨度が十分であるならば、その能力値に対して「適用」コマンドを実行することでマスターデータのパラメタ値(能力値やスキル値など)が置き換えられます。これがFLEXSCHE DataTunerのおおまかな使い方です。


それでは次にFLEXSCHE DataTunerの実際の画面を見ていきます。

dt1.png

この画面の右上のパネルがデータチューナーパネル(以下、DTパネル)、左上のウィンドウがデータチューナーコンソール(以下、DTコンソール)です。いずれかの「分析」ボタンanalyze.pngを押すと全データの分析結果をDTパネルにツリー状に分類して推奨度と推定値(新たな能力値)を提示します。DTパネルの項目をダブルクリックするとDTコンソールに視覚化されます。

DTパネルには2つの資源表と1つのファミリー(後述)が表示されています。さらに、推奨度が高いパラメタだけを抽出して表示する「推奨度順」もあります。

c11.png

この2つは各工程の資源表の能力値を表すものです。上段の「X#最終工程」に注目してください。右下の数値"200"は標本データ数(作業数)です。中央の青い縦線は現在の能力値、濃淡2色のグレーの矩形はデータの分布を表しており(短い2つの黒線は分布から算出された推定値)、それらの間に乖離があることを読み取れます。標本データ数が十分なときにはこの乖離が大きいほど、推奨度は高くなります。下部の水色の太線の長さが推奨度を表しています。

能力値を推定値に置き換える操作(=「適用」)をすると、下図のように現在値と推定値がほぼ一致します。

c12.png

一方、下段の「X#検査工程」では、現在の能力値(青線)と推定値(短い2つの黒線)はそれほど乖離していませんが、標本データのばらつき(ゆらぎ)がかなり大きく、計画の精度が低い望ましくない状態といえるでしょう。ところがこれを詳しく調べると、実は大幅に改善できることがわかります。

「X#検査工程」に対して「細分化」コマンドを実行すると、標本データの分布が、利用資源ごとに分けて個別に集計されます。

c31.png

濃淡2色のグレーの矩形は3つのリソースを合わせた分布を表しているのに対し、各リソースの小さくて黒っぽいグレーはそれぞれにおける分布を表しています。

この「X#検査工程」には検査機1、検査機2、検査機3の3つのリソースのいずれかが使われるのですが、資源表では一律の能力値が与えられています。しかしこのように個別に分布を観察すると、実はそれぞれのリソースの能力が異なっていたのだということが分かります。そして各リソースの能力にはほとんどゆらぎが無かったのです。

これらを3つの"利用可能区分"(能力値を定義するもの)に分割して、それぞれの推定値を適用すれば、ばらつきが大幅に改善されることがわかります。

c32.png

最後にコミットボタンcommit.pngを押すと「X#検査工程」は3つに分割されます。さらにそれぞれの推定値を適用すると、次のようになります。

c33.png


以上は、資源表の能力値だけで製造時間が決まる場合についてでした。しかし一般にはそうとは限りません。以前のブログの「パラメタ化された能力」のケースです。

ある作業の製造時間が単一の能力値だけで決まるのであれば単純なのですが、能力値のみならず個々のリソース(作業員など)のスキル値(作業員の熟練度など)も影響する場合はどうでしょうか。今回の例では、「X#工程1で作業員1が6個作る」ための時間は10/1.5*6=40分となります。

f1.png

このような場合、一般には「資源表の能力値」も「リソースのスキル値」も調整の対象となります。工程「X#工程1」「X#工程2」とリソース「作業員1(熟練工員)」「作業員2(新米工員)」のスキル値の組み合わせなので、標本データは2次元構造の4つのセルに振り分けられて、それぞれの分布が分析され、DTパネルとDTコンソールには以下のように表示されます。

p2.png

c21.png

このように、お互いに関連しあう(たとえば製造時間を変えずに能力値を2倍にするにはスキル値を半分にしなければならない)ようなパラメタの集まりをファミリーと呼びます。

このDTコンソールでは、赤くなっている「X#工程1」に注目して(背景のグレーの分布が「X#工程1」全体のものになっています)表示されています。この表示ではどのパラメタを推定値で更新するのがよいか、やや分かりにくいですが、「作業員1」のスキルをクリックすると、

c22.png

このように注目先が変わり、「作業員1」の分布全体が現在値(青い縦線)より右側、つまり時間が長い方へ偏っていることが見て取れます。つまり「作業員1は期待されているほどスキルは高くない」ということが一目でわかります。「作業員1」の推奨度(水色の太い線)の長さもそれを示しています。スキルの推定値を「適用」すると、次のようにきれいに揃います。

c23.png

この例は単純で分かりやすかったのですが、現実のデータではいろいろなパラメタがずれていて、それぞれを更新しなくてはなりません。次のデータは先に正解を言ってしまうと、「作業員1」と「X#工程2」が正しい値からずれているのですが、果たしてそれをDTコンソールから見て取れるでしょうか?

c24.png

ずれが存在することは確かですが、2つのパラメタが打ち消しあってしまうため、いずれがずれているのかは簡単にはわからないのです。実際、「作業員1」と「X#工程2」の推定値の「適用」を何度か繰り返すと全体の現在値が推定値にきれいに重なるので正解だとわかるのですが、推奨度が最大(といっても小さいですが)である「作業員2」への「適用」は不正解で、それでは収束しません。

初期バージョンでは、推奨度が役に立たない場合があるのは心苦しいところですが、将来のバージョンでは改善して一発で正解を提示できるようになるでしょう。あるいはユーザーの手を煩わせない全自動化、半自動化などもできるようになるかもしれません。それまでは標本データを蓄積してお待ちください。

FLEXSCHE DataTunerのライセンスが無くても、標本データの蓄積はできます


この例のファミリーは2次元でしたが、一般には3次元、4次元、5次元、ということもあり得ます。FLEXSCHE DataTunerは下図のように4次元まで対応しています。もっとも、現実にはこのような使い方は稀過ぎて、活躍する機会はほぼ無いと思いますが・・・

dt2.png


FLEXSCHE DataTunerを運用するためには、実績データ(正味作業時間と利用資源の情報)の取り込みが不可欠です。もちろん既存の仕組みで収集したデータでも構いませんが、FLEXSCHE CarryOutが収集する実績データには自ずと必要な情報が含まれているので、システムを容易に構築できるでしょう。

実績データが正確であるほどマスターデータの精度は向上し、生産スケジューラ運用の効用は高まることは言うまでもありません。


以上、ざっくりとしたご紹介でしたが、雰囲気は伝わりましたか?

FLEXSCHE DataTunerは、生産スケジューリングの精度向上をサポートするという、これまでにない仕組みを提供します。逆に言えば、当初はリソースの能力を粗く設定しておくことができるので、生産スケジューラの導入時や新品目追加時のハードルを大幅に下げてくれるに違いありません。

本製品は2021年6月24日に産声をあげたばかりで、まだ未熟ではありますが、今後ますます発展していきますのでご期待ください。

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