解説記事

第3回:生産スケジューラの活用方法のバリエーション

2013.02.25

生産スケジューラの活用方法のバリエーション

生産スケジューラの導入を成功させるためには、そもそもどのような活用方法があるのか、そしてそれらにはどのような特徴があるのかを理解しておくことが重要です。

生産スケジューラの活用方法には、大きく分けると2通りあります。

1つは、納期予測や材料手配、要員計画等のために、シミュレータとして活用するもの、もう1つは、作業指示のために文字通りスケジューラとして活用するものです。

活用方法1 シミュレータとして

この活用方法では、作業指示を出すことよりも、未来にどうなるかを可視化し、事前に対策を講ずることに重点を置きます。

例えば、以下のような使い方です。

  • 仮オーダーに対して、納期を予測し、回答する。
  • 受注済みオーダーに対して、完成予定日時を予測する。納期に対する余裕度合いを日々確認し、余裕が小さくなってきているものについてはそれ以上遅れないように重点的に管理する。
  • 設備や機械、作業者の負荷を確認し、問題があれば、残業や休日出勤、外注手配、さらには要員配置の見直しや多能工化の推進、設備投資などを検討する。
  • 各資材が将来どのように推移していくかの予定を確認し、タイムリーに入荷されるように資材の調達を手配する。

いわゆる「見える化」に似ています。ただし、通常の見える化は「今どうなっているか」を見えるようにしますが、この場合は「将来どうなるか」を見えるようにします。これにより、問題が発生するまでまだ時間的な余裕がある間に、つまり、様々な手段を選ぶ自由度が残っている間に、しっかりとした措置を講ずることができます。いわゆる「泥縄」で後追いで対策するのに比べて、効率的に対処できます。

シミュレーションの精度

生産スケジューラを使うと、精度の高いシミュレーションが実現できます。例えば、ExcelやMRPで無限能力で山積みする方法では、製造量が多い時と少ない時との違いをシミュレーションできませんが、生産スケジューラで有限能力でシミュレーションすれば、設備や作業者の負荷を考慮した上で完成予定日時を算出することができます。有限能力かどうかだけでなく、他にも、段取り替えや作業者の負荷や、作業の優先順など、実際にモノを製造していく上での様々な操業ルールや制約条件を課してシミュレーションすることによって、より精度を高めることができます。

シミュレーションと実際の製造とがかけ離れていると、色々と問題が出てくる可能性があります。例えば、シミュレーションで当初予測した完成時期が実際とはズレていると、納期直前になって残業や外注などで対応することになるかもしれません。また、材料の実際の消費のタイミングがシミュレーションよりも早くなると、材料不足のために作業ができなくなるかもしれません。

また、シミュレーション上は特定の機械や作業者の負荷が高いように見えても、実際の製造では作業の順番を調整することで段取り替え(切り替え)を短縮しており、実際の負荷はそれほど高くないかもしれません。また逆に、シミュレーションでは負荷が低くても、実際には多品種少量生産による段取り替えが頻発しているかもしれません。段取り替えも考慮して正確にシミュレーションすることができれば、無駄な設備投資や要員増強を避けることができます。ただしそのためには、実際に各資源でどのような作業順序で製造するかまでシミュレーションする必要があります。

なお、精度が低くても、運用を工夫することである程度カバーできますが、無駄は増えます。

例えば、納期回答では、精度が多少低くてもその分安全率を大きめにして余裕を持たせた納期を設定すれば、最終的な納期遅れの確率を小さくすることはできます。しかし、その分、顧客に対して確約できるリードタイムが長くなるので、受注できず機会損失が発生するかもしれません。

材料の調達も同様で、余裕を持って早めに手配すれば安全ですが、その分在庫が増えることになります。

ただし、精度の高いシミュレーションを実現するためには、精度の高いデータが必要になります。それらのデータを継続的にメンテナンスしていくことも当然必要です。また、必要な制約条件を生産スケジューラが表現できない場合、何とかして近似しようとすると大変に苦労することになります。

まとめると、シミュレータとして活用する場合、精度がそれなりでも効果もそれなりに得られますが、頑張って精度を上げればその分効果が大きくなります。ただし、精度を高めるには、それに応じた労力や眼力が必要です。したがって、適切な折り合い点を見出すことが大切です。
ともあれ、「成功か失敗か?」という二者択一に直面するわけではないので、リスクの低い活用方法だと言えるでしょう。

活用方法2 スケジューラとして

この活用方法は、上で述べたシミュレータとしての活用に加えて、日程計画を立案し製造部門に作業指示を出すものです。

この方法は、さらに2通りに分けることができます。

1つは、現場裁量を認めず、指示の通りに製造させる「中央集権型」、もう1つは、一定の基準を設けて現場の裁量を認める「分権型」です。

活用方法2-1 中央集権型

この方法では、生産管理部門が実行可能な日程計画を立案し、それに基づき製造部門に作業指示を出します。製造部門は原則として作業指示の通りに製造します。

長所および短所としては、以下が挙げられます。

◆長所

  • 計画と実際の製造との乖離が小さくなるので、予定と実績の乖離も小さくなる
  • 生産リードタイムを極限にまで短縮できる可能性がある
  • 製造部門にとっては無理な指示を出されないので責任が明確になる
  • 工場全体さらにはサプライチェーン全体を通した最適な生産が可能になる(かもしれない)

◆短所

  • 現場の納得する計画を立案できないと稼動できない
  • 製造部門からの抵抗、反発にあう可能性がある
  • マスターデータの精度と適切なスケジューリングロジックが必要
  • 製造や運搬、調達の実行における緻密な統制が必要

簡単に言えば「成功すれば絶大な効果が得られるものの、逆に失敗のリスクも高い」という「ハイリスク・ハイリターン」な方法です。

一般に、生産スケジューラの導入では、本稼働直前になって問題が多発するという「実稼働直前の壁」に直面することがありがちですが、この方法の場合は特にその可能性が高くなります。

この壁を突破するには、「的確なパッケージ選定」「高度なパッケージ利用技術」「しっかりした導入体制」が必要です。

活用方法2-2 分権型

この方法では、製造部門は、生産管理部門からの作業指示にある程度従いますが、一定の裁量権を持ちます。

たとえば、「1日の中で作業の順番を入れ替えてもよい」という具合です。

長所および短所は以下の通りです。

◆長所

  • 計画と実際の製造との乖離が(そこそこ)小さくなるので、予定と実績の乖離も(そこそこ)小さくなる
  • 生産リードタイムを(そこそこ)短縮できる可能性がある
  • 製造部門にとっては、無理な指示を出されるケースが減り、また一定の自由度も確保できるので、抵抗、反発が比較的少ない

◆短所

  • マスターデータの精度やスケジューリングロジックのチューニングはそれなりに必要
  • いったん「そこそこ」で満足してしまうと更に上を目指しにくい(?)

つまり、「完全に自由にしてしまうと日程計画の意味が無くなってしまうが、かといってがんじがらめにするのも非現実的」という場合のための、「理想と現実の間の折衷案」ともいえます。

どの活用方法を選ぶべきか?

これらの活用方法の特徴を踏まえた上で、自社にはどの方法が適しているかを見極め、選択しましょう。

「スケジューラの導入は難しい」という場合、上の中央集権型を指していることが多いのではないでしょうか? この方法は確かに非常に難しく、導入を成功させるには、高度な組織マネジメント、適切なパッケージ選択、およびその利用技術の確保、マスターデータの精度、継続的なメンテナンス、等が必要です。どれか1つでも欠けると、失敗確率が高くなります。特に、不適切なパッケージを選んでしまうと、まず間違いなく失敗します。導入プロジェクトを慎重に進める必要があり、稼動までの期間も長くなります。また、そもそも製造自体に不確定要素が多く、予定通りに製造できないことが多い場合には、中央集権型の運用はまさに「労多く益少なし」です。

ただし、完全に統制できる職場で、かつ、揺らぎが少ない(あるいは小さくできる)のなら、究極的にリードタイムを短縮できる可能性があります。

分権型の場合も、やはりそれなりの手間や労力は必要です。そもそも生産スケジューリングシステムの導入は、関与部門が多岐にわたり関係者の利害が複雑に絡むため、マネジメントの難しいプロジェクトです。導入を成功させるには中央集権型と同様の項目が必要です。そこまで究極的ではありませんが、油断は禁物です。現場に裁量を持たせるとしても、そもそも計画がデタラメなら作業指示を出す意味がありません。それなりの精度が必要です。

まとめると、無難なのは「シミュレータ」、頑張ってやるなら「分権型」、究極的には「中央集権型」、というところです。

導入効果を大きくするには

いずれの活用方法でも、生産スケジューリングシステムはあくまでもツールに過ぎません。生産スケジューラの導入効果は、生産スケジューラが立案したスケジュールを基に、人間がどのような活動を行うかによって変わってきます。

たとえば、特定のスキルの作業者が不足しているとわかっても、あからさまにすると角が立つからと情報をオープンにせず、多能工化を進めなければ、得られるはずの効果が得られなくなります。

また、立派な計画を立案していても、製造や搬送がそれに従わなければ意味がありません。とはいえ、きめ細かで膨大な指示に忠実に従うのは、現実的にはなかなか大変です。実行系における何らかの仕組みが必要なケースもあります。

どんなパッケージを選ぶべきか

これまで述べてきたように、スケジュールの精度が高い方が効果も高くなります。したがって、工場の様々な制約・制限を緻密に表現できるパッケージの方が良いということになります。特に、中央集権型を目指すのなら、相当なフィット性が必要です。

その見極めのためには、プロトタイプを作成し、実際にパッケージを評価することが大切です。ガントチャートだけを見ればどれも同じ、と思われるかもしれませんが、実際には各パッケージにはそれぞれの特徴があり、向き・不向きがあります。単に「安いから」「実績No1だから」「画面がきれいだから」という理由で選ぶのは非常に危険です。

しかしながら、どんな機能が必要なのかは、事前にはなかなかわかりにくいものです。システム構築を進めて本稼働直前に計画結果を確認した時に、「このパッケージではダメだ」ということが判明することも、決して珍しくありません。また、運用中に様々な変更があり、新たな要求が発生することもあります。というよりむしろそれが普通です。

したがって、当初は想定していなかった事態にも対応できるような「懐の広さ」「柔軟性」がパッケージには必要です。

  • 今後、この工場にどんな変化が起こりうるだろうか?
  • それに対応するためには、システムにはどんな仕組みが必要になるだろうか?
  • その場合、このパッケージだと、どうなるだろうか?

そのような想像を働かせて、慎重にパッケージを選定すべきです。

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